宇宙航空研究開発機構JAXA :: 後編

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地球からの呼吸を感じる-「いぶき(GOSAT)」

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宇宙航空研究開発機構JAXA :: 後編

「いぶき」の観測データは、どのような形で利用されるのですか。

「いぶき」は、JAXA・環境省・国立環境研究所が共同で開発、利用している人工衛星です。JAXAでは、人工衛星の打ち上げと運用によって太陽光スペクトルのデータを取得します。そこから校正により取得データが正確かどうかの確認を行い、そのデータを国立環境研究所に送ります。

国立環境研究所では観測データの処理をし、温室効果ガスの全球濃度分布を算出します。これにより、どの地域にどれだけの温室効果ガスがあるのかを把握することができます。また、地上の大気輸送モデルといったシミュレーションデータを使い、温室効果ガスの吸収量と排出量を足した値である「ネット吸収排出量(※)」の分布図を解析して作成します。「いぶき」のデータが活用されるのは、主に温室効果ガスの全球濃度分布とネット吸収排出量の分布になります。

※温室効果ガスの排出量が多ければ「+(プラス)」、吸収量が多ければ「-(マイナス)」となる。

現状の温室効果ガス地上観測点

人工衛星がないときには、地上観測点や飛行機によって温室効果ガスを測っていました。しかし、地上観測点は世界中で282点しかなく、観測点がヨーロッパや北米に偏っていて、南半球や海上にはほとんど観測点はないという状況です。これに対して「いぶき」の観測ポイントは、全世界で56,000点もあるのです。そのため、地球全体を観測することが可能です。また、温室効果ガスの濃度が高いところはどこか、その地域で吸収・排出されているのかについて、従来の観測方法では正確に知ることはできませんでした。「いぶき」で全球を観測することにより、温室効果ガスの現状の正確なデータを取得できるのです。

いぶき(GOSAT)観測点

「いぶき」で得た温室効果ガスのデータを基に、世界中で科学者・研究者が将来の温度上昇の予測を行うことが期待されます。「IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change=気候変動に関する政府間パネル)」の第4次報告書が昨年(2008年)に発表されたのですが、そのなかでは温度予測の最新の状況などが報告されています。その報告で注目すべきは、温度上昇は人的要因によるものに違いないという結論がなされていることです。

「いぶき」のデータにより温度上昇の予測精度が高まることで、対策を立てることも可能となります。このような形でも、「いぶき」の観測データが貢献しているのです。

一般的な統計によると、温室効果ガスの排出量が最も多い国は米国だとされています。中国がそれに続き、4番目が日本となっているのです。怖いのは、温室効果ガスを排出することによって地球の温度が上がり、それによって気候変動が起こり、異常気象が引き起こされるということです。

「いぶき」は今年(2009年)の1月23日に打ち上げられましたが、打ち上げられてから3ヶ月間は、機能を確認する段階になります。それを経て、観測データの校正・検証を行い(3ヶ月)、それ以降は定常観測モードに入ります。定常観測モードになってから、JAXAが作成するデータ(レベル1データ)は打ち上げの9ヶ月後に世界中の研究者に公開されることとなります。国立環境研究所の濃度分布(レベル2データ)については、12ヵ月後から一般研究者向けに配布されます。

ヨーロッパにはESA(=European Space Agency:イサ/欧州宇宙機関)という宇宙研究開発機関があり、ESAでも地球観測衛星を打ち上げています。しかし、温室効果ガスを観測する衛星は打ち上げていません。そのため、ESAでは「いぶき」のデータが欲しいということもあって、JAXAとの協力を調整している段階です。「いぶき」のデータは、ノルウェーにあるスバルバード局(受信設備)に送られるのですが、そこはKSAT(コングスバーグ衛星サービス)という企業が運営を行っています。そのため、JAXAではKSATと委託契約を結んでいます。スバルバード局から地上回線を使い、日本にデータが送られていますが、途中の回線でかかる一部の費用をESAが負担し、JAXA側からは「いぶき」のデータをESAに渡し、ESAからさらにヨーロッパの研究者にデータが配布されるといった協力を調整中です。

「いぶき」の今後の展開についてお聞かせください。

「いぶき」は5年間、軌道上で二酸化炭素とメタンガスの濃度データを取得することになります。実は、温室効果ガスの「ネット吸収排出量」の分布図は、まだデータとしては粗いといえます。世界を64分割し、その地域ごとに吸収排出量を算出するのですが、64分割というのは世界全体で見ても広い区分けだといえます。米国やオーストラリアなど広い国は可能ですが、小さい国では正確な吸収排出量を知ることはできません。そのため、各国別の吸収排出量を把握することは、現状では難しいことなのです。「いぶき」の後継機では、世界にある国の、70~80%程度のデータの取得を目指したいと考えています。

「いぶき」では、4ppm(100万分の4)という極めて微量な二酸化炭素の濃度の変化を測定することが可能です。地球の大気中にある二酸化炭素の濃度は平均すると370ppm(100万分の370)であり、1年間の濃度の変化はおおよそ4ppmといわれています。そのため、最低でも4ppmの変化を測ることができなければならないのです。後継機では、1ppm(100万分の1)以下でも測定できるよう精度を高めたいですね。

さらに、「いぶき」では二酸化炭素とメタンガスが観測対象となっていますが、後継機ではその観測対象を広げることも考えています。

「いぶき」の開発費用はどれくらいなのですか。

人工衛星自体では総額で183億円となっています。環境省で一部センサ費用を負担しており(15億円)、残りはJAXAが負担しています。確かにかなりの費用ですが、従来の人工衛星はこれよりももっと開発費用がかかっていました。「いぶき」はミッションを絞り、中型の人工衛星として開発したので、かなりのコストダウンを実現しています。ちなみに、ロケットの打ち上げ費用だけでも約90億円が必要です。

これだけはぜひお話したいという内容があれば、お聞かせください。

「いぶき」のデータが世界中の研究者が活用し、「IPCC」などの報告書に利用されるようになることが理想です。また、一般の人が温室効果ガスの「ネット吸収排出量」の分布図を見て、地球の環境について考えるきっかけになればと思います。

さらには気象庁と協力して、気象情報のひとつとして、お茶の間に毎日、二酸化炭素の濃度や吸収排出量を提供することができればと思います。


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