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日本の翼JAL。航空機による大気観測で分かった 意外な事実とは?

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機内窓の日よけを下ろす取り組みというのも行っているそうですね。これは、どのようなきっかけでスタートしたのですか。

航空会社における環境に与える負荷のほとんどは、飛行機を飛ばすことによるCO2の排出です。そのため、運航時のCO2排出量を削減できれば、環境への取り組みにおいて大きなインパクトとなります。そこで、自動車と同じように、燃費の良い飛行機に交換する、機体の重量を軽くするといったことでも、CO2排出量の削減を進めています。

それ以外にも、どのような場面で何をすればCO2排出量を削減できるかを考えたなかで、空港に飛行機が駐機しているときでも、空調などの消費エネルギーの使用量を減らすことができるのではないかという視点に立ちました。

空港に停留している間、機体内の照明や空調などの電力は、地上の設備でまかなう場合と、機体に装備されている補助動力装置によってまかなう場合があります。

地上の設備を利用する場合は、空港の所定の施設から電源コードとエアコンのダクトを引いて、それを機体に取り付けます。機体のみで空調などの電力をまかなう場合は、補助動力装置(APU/Auxiliary Power Unit)という機体尾部の小型ジェットエンジンを使います。

補助動力装置には、飛ぶための燃料と同じ燃料を使っています。当然ジェットエンジンなので、利用しなければCO2を排出することはありません。飛行機が出発する際、最初は車で後ろ向きに押されながら移動します。そのタイミングでエンジンをかけるのですが、すでにお客様が搭乗しているので、空調や電源などを入れておかなければなりません。そこで、機体が地上にあるタイミングで、空港の設備から補助動力装置に切り替える必要があります。しかし、先にお話ししたように補助動力装置を回すとCO2を排出するため、なるべく使う時間は短い方がいいわけです。

皆様のご家庭でも、暑い日に室内のカーテンを閉めてエアコンの冷房効果を高めるということを経験されていると思います。それと同じ理由で、地上で駐機した実機を並べて検証した結果、客室窓のシェード(日よけ)を下ろす場合と、下ろさない場合とで実験時は3度ほどの差があることが分かりました。

そこで、シェードを下ろして日射による機内の温度上昇を抑え、適温をなるべく長く維持し、空調の利用開始を遅らせることで、必要なエネルギーの消費とCO2排出量の削減を実施しています。

当社としてはこの取り組みは環境保全に貢献するという判断ですので、お客様にもご協力いただけるよう、到着時にはアナウンスによるお願いをしています。

「Engine Out Taxi(エンジンアウトタクシー)」という取り組みもなさっていますね。

飛行機のエンジンは、アイドリングの状態でも機体を前に進ませるだけの力があります。また、そもそも地上の走行中はタイヤに駆動力はなく、空回りしている状態であり、翼にあるエンジンが空気を後方に出す勢い(推力)で進むのです。

重い機体を離陸させるだけの力があるので、フライト後に燃料が減って機体が軽くなっていれば、アイドリングの状態でも十分に進むことが可能なのです。そこで、通常はアイドリングでエンジンを使いながら、場合によりブレーキでスピードを抑えつつ、滑走路から誘導路へ移って駐機場(スポット)に向かいますが、その途中で片方のエンジンを停止して進むことが可能ではないかと考えたのです。

現在の機体は双発機(※主翼の両側に1基ずつエンジンを搭載した機体)であるため、片方のエンジンを切って、本当に進むことが可能か、曲がることができるかなどを十分検証した結果、一定の条件がそろっている空港については、着陸後に片側のエンジンを停止して駐機場に向かう方法をとっています。これが、「Engine Out Taxi(EOT)」という取り組みです。

片側のエンジンを停止しているので、その分CO2排出量の削減に貢献できるということです。現在は、当社が「Engine Out Taxi」を実施可能と判断した空港や機種で、このような取り組みを順次広げています。ただし、気象条件が悪い場合や、誘導路などで勾配の多い空港の場合にはルールを設けていて行うことはありません。

機体の燃料というのは、そんなにも重いものなのですか。

燃料が搭載されているのは、(スペースの問題もありますが)基本的に機体の主翼の部分です。具体的な量としては、気象条件などによって異なるものの、太平洋を越えるのにドラム缶で約800本から1,000本分の量が必要です。

燃料は灯油に似た成分なので水よりも比重は小さいとはいえ、それでもかなりの重さになります。そのため、フライト前と後では機体の重さに大きな差があります。

「Engine Out Taxi」により、CO2排出量をどれくらい削減することができるのですか。

ボーイング777・767・737型機の3機種で行っているのですが、グループ全体で合計すると、1カ月で約1,246,000リットルもの燃料を削減しており、約312トンのCO2削減に匹敵します(※2013年7月実績)。また、これを杉の木に換算すると、約22,300本分の年間吸収量(※)に相当します。

※杉の木1本が、1年間に14キログラムのCO2を吸収するとした場合。

ほかにも、安全を最優先するという大前提のもと、パイロットも運航中にどうすればCO2排出量を削減することができるかを考えたうえで毎日の操縦をしています。

例えば、飛行機の着陸時は巡航時よりも速度を落とすわけですが、その際に、低速でも揚力が得られるように、主翼には面積を大きくするための「フラップ」というものが備え付けられています。フラップを利用することで着陸のための低速時に十分な揚力を確保するのですが、このフラップにより空気抵抗も大きくなるので、その分、エンジンの出力が必要となります。

また、車輪も着陸時には必要ですが、空気抵抗が大きいので、燃費の観点からは機体から出すのはなるべく遅い方がいいのです。そのため、パイロットはフラップや車輪を出すタイミングを考え、できる限り(※安全性を損なわない限り)CO2排出量を削減するような操縦を心がけています。

飛行機に搭乗されると、着陸時にエンジンの逆噴射による大きな減速を感じると思います。逆噴射というのは、エンジンの機械的な仕組みにより推力を斜め前方に出すことによって、空気の力で機体を急激に減速させるためのものです。しかし、滑走路に十分な長さがあり、気象条件が良ければ、逆噴射を使わなくても安全に着陸ができる場合があります。そのようなケースでは、機長の判断で、逆噴射をしないという選択をすることもあります。これにより、逆噴射によるエンジンの高回転を避け、その分CO2の排出量を少なくすることができます。

パイロットが所属する運航本部には、環境についてパイロット自身が考える組織として「空のエコ プロジェクト」が設けられています。そこでは、環境のためにパイロットにできることは何かを皆で集まって考え、具体的に形となったものを全社に発信しています。取り組みに対し、さまざまな部署の協力を得てデータを集計し、結果をフィードバックすることにより、自身の操縦で環境保全に貢献できるというパイロットのモチベーション向上にもつながっています。


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