三菱電機株式会社 :: 後編

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素材として家電製品に再利用できる高純度プラスチック

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三菱電機株式会社 :: 後編

レアアース磁石の回収事業についてお聞かせください。

レアアース磁石が製品のどこに使われているかという点からお話しします。ルームエアコンでは、室外機内のコンプレッサー(圧縮機)で使われています。当社のコンプレッサーは2本あるパイプでガスを吸入し、圧縮して上部から吐出するというようになっています。コンプレッサーの下部に圧縮するための装置がついており、その装置の上にモーターがあるという構造です。

コンプレッサー(圧縮機)

コンプレッサーの胴体を切って上部を取り外すと、銅線が巻かれたステータ(固定子)という部品が出てきます。

ステータの中にローター(回転子)という部品があるのですが、その内部に平たい板状のレアアース磁石が使われています。レアアース磁石は、2000年ごろから高性能化・小型化を目的に使用されています。

ローター(回転子)

ここで利用されているレアアース磁石は、ネオジムと鉄、ボロン磁石です。永久磁石では最も磁力が強いとされているのですが、加熱するとすぐに磁力を失うという性質があります。そこで、熱に対する耐性をつけるために、ジスプロシウムというレアアースが使われています。これによって、エアコンの部品にも使用できるようになったのです。

中国の輸出規制により数年前にレアアースが問題となった際、ジスプロシウムの値段が高騰し、地金価格でkg当たり3,000ドルを超えました。現在(※2013年8月現在)では1,000ドルを切っていますが、このジスプロシウムは、中国以外では産出されません。レアアース磁石の回収事業は、その意味ではジスプロシウムを回収、再利用するというのが目的でした。

レアアース磁石はどのように回収するのですか。

グリーンサイクルシステムズでは、すでに2010年よりコンプレッサーからステータを分離して銅を取り出す取り組みが行われていました。しかし、レアアース磁石が使われているローターは分離されることなくほかの部品と一緒に回収し、鉄としてリサイクルされていたのです。

そこで、新規プロセスとしてローターの解体によりレアアース磁石を取り出す自動解体装置を、経済産業省の「レアアース等利用産業等設備導入事業」による支援を受けて開発し、2012年4月から稼働を開始しました。

自動解体装置

どのメーカーのコンプレッサーでも、ローターはシャフトに焼き嵌め(やきばめ)される形でついています。まず、第一のステップとしてローターをシャフトから引き抜きます。次に、ローターを解体するわけですが、強力な磁石が使われており、周辺の金属と結合しているため、脱磁を行う必要があります。そこで、解体装置には専用の脱磁工程を組み込みました。これが、第二のステップとなります。

ローターは電磁鋼板が積み上げたように組み合わさっており、その隙間に磁石が入っています。これらはリベット(鋲の一種)で固定されていますので、このリベットを切断します。これが、第三のステップです。

この、引き抜き・脱磁・リベット切断の3つのプロセスを自動化したのが、自動解体装置です。自動解体装置の技術開発のポイントとして、「脱磁方式の選定」と「さまざまなローター形状への対応」が挙げられます。脱磁方式については、常温でも可能な「共振減衰磁界法」を選定しており、わずか30秒に1個のペースで磁力をなくすことができます。

共振減衰磁界法では、短時間に磁界の反転を繰り返します。その磁場を徐々に小さくしていくと、磁力が次第になくなっていきます。この方法であれば、常温かつ短時間で脱磁できるというメリットがあります。

さまざまなローター形状への対応とは、当社の製品において多様な形状があるという意味だけでなく、他社製品も回収されるという意味も含まれます。ローターの形状はデータベース化しており、作業者が対応機種のボタンを押すと、あらかじめ設定された位置でリベットを切断してくれます。

着磁専用の装置をつくるメーカーがいくつかあるのですが、それらのメーカーの協力と前述の経済産業省の支援により、この装置を開発することができました。

レアアース磁石はどれくらい回収できているのですか。

経済産業省の産業構造審議会の資料によると、レアアース磁石を含んだ使用済みエアコンは、2011年ではリサイクルプラントに戻ってくるうちのわずか5%でした。2012年でも10%は超えていません。そのため、自動解体装置はつくったものの、現在(※2013年現在)1日のうちで1時間も稼働していないという状況です。

前述の産業構造審議会資料には、これまでレアアース磁石を回収、リサイクルが行われてこなかった背景として、レアアース磁石からネオジムやジスプロシウムを回収する「後処理技術」はすでに実用化されているのに対し、使用済み家電に含まれたレアアースを分離・回収する「前処理技術」については実用化が進んでいないことが記載されています。

三菱電機では、製品製造でレアアース磁石を使用している企業であることから、その回収にも積極的に取り組むべきと考え、本解体装置の開発とリサイクル現場への投入を推進しました。

産業構造審議会の資料によると、レアアース磁石を含んだ使用済みエアコンの回収率は、2020年には65%にまで上昇すると予想されています。現状では、事業という点ではなかなか難しいのですが、貴重な材料を活用している企業として、その素材循環に貢献すべく、先行した取り組みとして、引き続き対応していく考えです。

レアアース磁石の回収事業がスタートした背景については、「家電リサイクル法」の影響があるのでしょうか。

レアアース磁石の回収事業自体は、家電リサイクル法で定められた義務ではありません。しかし、世の中が注目し、その素材循環が求めているものであれば、進んで取り組んでいこうという思いがありました。従って、レアアース磁石の回収事業は必ずしも家電リサイクル法の影響を受けていたわけではありません。

高純度プラスチックリサイクル事業とレアアース磁石の回収事業の、今後の方針についてお聞かせください。

当社独自で技術開発を進め、事業として立ち上げたわけですが、プラスチックのリサイクルとともに、レアアース磁石の回収も今後さらに重要になっていくものと思います。そのため、他社さんとも協力してこの事業拡大を目指していきたいですね。

家電リサイクル全体で回収されるプラスチックの量は、20万tから30万tと言われていますが、当社で扱う量は、そのうちの1万tから1万5,000tほどです。私どもの技術をより広く活用する余地は、まだまだあるものと考えられます。リサイクルに携わる多くの企業との協力関係を深め、日本全国で展開できるような形を考えていきたいと思います。

近年、リサイクルで回収される素材などの質に対する議論も活発になっていると聞いています。家電リサイクルにおいて再商品化という指標が本当にいいのかという議論にもなっています。

こうしたなか、プラスチックだけでなくレアアース磁石やその他の金属についても、リサクルプロセスを通じて素材にまで戻すことによって、その質を担保するということが、分かりやすい方法ではないかと思います。それを推進するために、当社はハイパーサイクルシステムズやグリーンサイクルシステムズと一緒に取り組んでまいります。

小笠原様
貴重なお時間のなか、取材にご協力いただきありがとうございました。純度の高いプラスチックをリサイクルするために、これほどまでの工程を要することに驚きました。


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