三菱電機株式会社 :: 後編

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素材として家電製品に再利用できる高純度プラスチック

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三菱電機株式会社 :: 後編

これほどまでに手間をかけたプラスチックの選別は、従来の方法よりもどのような点で優れているのですか。

手解体できないプラスチックでも大量かつ高純度に選別回収し、マテリアルリサイクルができるという利点があります。

基本的に、大きなプラスチック素材については人の手で解体します。家電リサイクル法の対象はテレビ・冷蔵庫・洗濯機・エアコンの4つなのですが、例えば、冷蔵庫を開けると透明な棚(トレー)があるかと思います。透明棚にはPSが主に使われているのですが、手で簡単に取り外すことができます。また、PPが使われている野菜ケースがあるかと思いますが、それについても、リサイクルプロセスにおいて人の手により簡単に取り外すことが可能です。

手解体ができる最も大きな部品としては、洗濯機のドラムの外側にある貯水槽が挙げられるのですが、そこにはPPが使われています。このような部品を再利用していこうという取り組みは、家電リサイクル法が施行された当初から積極的に行われているものの、手解体による回収は使われるプラスチック全体のうちのわずか10%にすぎませんでした。なお、当社のリサイクルプラントで調査したところ、それよりも低い6%という結果でした。どんなにがんばったとしても、20%もいけばいい方でしょう。

残った手解体のできないプラスチックはどうなるかというと、混合状態で破砕されることになります。PP・PS・ABSのそれぞれのプラスチックは、混合状態では溶かしても均一には混ざりません。また、多くの異物が混入してしまいますので、まともな材料として利用することができず、燃やす以外に方法はなくなります。

当初、ハイパーサイクルシステムズでプラスチック残さリサイクルプロセス(微破砕プロセス)を開発・導入したのは、微小な金属類を取り除くことによって、混合状態のプラスチックでも石炭の代替物として鉄の精錬に有効利用できるからでした。つまり、製鉄メーカーにおいて、廃プラスチックを高炉還元剤として再利用することが可能なのです。さらなる有効利用を目指した検討のなか、そのプラスチックを比重などによって単一種類のプラスチックに選別すればマテリアルリサイクルが実現できるということが分かり、その技術開発に注力していったわけです。

このようにプラスチックを選別することで、従来は全体の10%以下しかマテリアルリサイクルできなかったものが、70%から80%くらいまで可能になったという点が、従来の選別方法よりも優れていると言えるのではないでしょうか。

プラスチックのリサイクルに、なぜこれほどまでのプロセスを踏む必要があるのでしょうか。

家電製品にはさまざまな種類のプラスチックが使われているのですが、その事実を一般のお客様の多くはご存じないと思います。

さまざまなプラスチックがあるなか、PPという素材が耐久性・耐熱性が高く、値段も安いため、現在では家電製品に最も使われています。しかし、簡単に言えば“ロウソクの塊”のようなものなので、成形しにくいという難点があります。そのため、エアコンの室内機の吹き出し口やパネルなどといったお客様の目にとまる部分には、成形しやすいPSを使います。

なお、先ほどテレビのバックカバーについてお話ししましたが、ブラウン管が主流の時代には、多くのメーカーではPSが使われていました。PSはPPに比べて難燃化しやすいという特徴があるからです。

エアコン室内機のパネルは頻繁に開閉を行うことに加えて、台所の近くで使用することもあって、油などが付着してしまう場合も考えられます。PSという材料は、力のかかる部分に油などが付着すると割れてしまう恐れがあるのです。そこで、そのような部分にはABSを使用します。

このように材料の使い分けをしているのですが、リサイクルする際に、このプラスチックを機械的に、例えば比重で選別しようとしても、PPの比重は1.0以下、PSとABSの比重は1.0から1.1というように、その差が小さいという課題があります。しかも、PSとABSの比重差はありません。そのため、静電選別が必要になるわけですが、こうした理由から、大規模な装置を使って何段階ものプロセスを踏む必要があるのです。

例えば、銅とアルミニウムであれば、前者の比重は8.8であり、後者は2.7です。これだけの比重差があれば、比較的簡単に選別することが可能であるとご理解いただけると思います。

2001年に施行された「資源の有効な利用の促進に関する法律(資源有効利用促進法/改正リサイクル法)」では、分別回収のために製品で使われているプラスチックやアルミニウムなどの識別表示が義務付けられました。その表示を基に材料を手で解体するのは可能ですが、やはり限界があります。そこで、機械による選別のプロセスを構築することを目指したわけです。

これほどまで精度の高い選別を実現するとなると、開発までにかなり苦労されたのではないですか。

当社のさまざまな部署のメンバーの力を結集して開発を行ったのですが、プラスチックのリサイクルの技術開発に力を入れてきたのは10年以上も前からです。家電リサイクル法(特定家庭用機器再商品化法)が施行されたのは2001年からですが、当社では2004年の時点で比重選別の技術を確立しており、そのことをプレスリリースしています。

そのなかで、2008年にはPSとABSを選別する技術も構築して、プラスチック選別の事業化を図るという宣言を行いました。実際に、2008年にはその技術を確立し、新たな事業として立ち上げるとプレスリリースしています。そして、2008年後半にリーマンショックの影響を受けたものの、プラスチックのリサイクルプラント(グリーンサイクルシステムズ)は2010年より稼働を開始しました。

もちろん、2004年のプレスリリースの内容は、それ以前の研究開発があってのことです。私自身が現在の仕事に就いたのは2003年のことなので、それ以前からプラスチックリサイクルの技術開発に取り組んでいたというわけです。

ここで質問に対する回答となるのですが、私どもが求めるこれほど精度の高い選別ができる装置というのは、当時、世の中に売られていませんでした。もちろん、浮沈選別装置自体はすでに世の中にありました。また、湿式サイクロン装置もすでに存在していたのですが、高純度なプラスチックの選別を実現するためにはその「改良」が必要でした。

ジグ選別装置については、もともと石炭の選別に使っていたものでしたが、すでに日本では炭鉱が閉山して石炭の採掘が行われていないため、この装置を製造するメーカーがなくなっていました。プラスチックの選別に応用する必要もありましたので、ジグ選別装置を最初から開発することになったのです。

静電選別は、技術開発において先行されていたメーカーさんはいくつかあったと思いますが、装置を製造販売しているところはありませんでした。選別原理は公知のものですが、装置は存在していないというわけです。そのため、静電選別装置についても最初から開発することになりました。

さらに、X線分析選別のための装置となると、全く何もない状態から開発する必要がありました。

そのような苦労があったわけですが、経済産業省からの支援もあり、研究開発を進めることができました。

PPのX線分析選別の装置は自社で全て開発していますが、PSとABSの選別装置については、PPと比較すると難燃剤を含有している比率が高いので、大容量に対応できるものに改良することが必要でした。この開発には、国からの支援をいただきました。

このように、すでにある基本的な原理や技術を使っているものでも「一からの開発」というケースが多かったのです。そのため、2010年にプラスチックのリサイクルプラントを稼働させる5年ほど前からハイパーサイクルシステムズの近くに倉庫を借りて、実際の7分の1ほどのミニラインを設けて実証を行い、改良を進めてそれぞれの装置を完成させていきました。全ての装置の完成をもって、プラスチックのリサイクルプラントの建設に着手しました。そう考えると、下積みの期間は長かったと思います。


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