東レ株式会社

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2020年近傍で達成すべき2つのビジョン

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東レ株式会社

今回の「エコなニュース」は、炭素繊維「トレカ®」や浄水器「トレビーノ®」でおなじみの東レ株式会社様の取り組みをご紹介。

東レ株式会社様では、「LCM(ライフサイクルマネジメント)」による環境経営やグリーンイノベーション製品など、数多くの取り組みをなさっているようです。その詳細は、どのようなものなのでしょうか。

地球環境事業戦略推進室 主幹 南様

早速ですが、よろしくお願いいたします。

環境に関する取り組みを始めたきっかけをお聞かせください。

東レは化学製品を製造するメーカーということもあって、環境保全という観点から環境保安部などの専門部署による対応はかなり昔から行っていました。そのような意味では、環境への取り組みというのは化学製品のメーカーとしてはマスト=対応すべきこととして浸透していました。

現在(※2011年現在)私がいる地球環境事業戦略推進室という部署が設立されたのは、2年前の2009年5月です。設立時に、環境問題というのは有害物質の削減や廃水処理といった「守り」の姿勢だけではなく、むしろ今後は地球環境に関連する事業戦略の構築などを行わなければ、国際競争のなかで生き残れなくなるという危機感がありました。その意味では「攻め」の姿勢を取るための部署にしていこうという目標を立てました。

東レ全体としても、地球環境に危機意識を持った事業運営をしない企業は生き残ることのできない時代になったと考え、2008年に当時の社長(現会長)が地球環境経営を表明し、“東レはすべての事業戦略の軸足を「地球環境」に置いて、「持続可能な低炭素社会」の実現に貢献します。”という新たな事業方針を立てました。

翌2009年には、東レグループの地球環境に関するスローガンと地球環境戦略と具体的目標値を公表しています。

正確にいえば、地球環境事業戦略推進室で取り組んでいる戦略というのは、2007年にはスタートしたといえるでしょう。

地球環境事業戦略推進室は、社長直轄組織として2009年5月に設置され、同年7月より活動をスタートしました。現在は専任が3名、兼任が10名の合計13名体制の組織となっています。今回の取材のように、東レグループの地球環境戦略と実行戦術に関する社内外へのPR・浸透・定着活動など、地球環境に関する社内外へのワンストップトータルサービスを提供するとともに、東レグループの地球環境に関する2つの数値目標(※)の達成支援、更には、文字どおり「地球環境事業」の戦略立案、推進を支援する、といったミッションを打ち立てています。

※後述する、2020年近傍のビジョンとして掲げる“CO2削減貢献量2億トン以上”と“グリーンイノベーション製品の売上高1兆円”という2つの数値目標を意味する。

地球環境事業戦略推進室の最初の案は「地球環境戦略室」だったのですが、そこに「事業」を加えたいという当時の社長の強い思いがありました。その意味では、単に環境問題について情報収集をするだけではなく、事業として戦略的に育てていかなければならないということで、全社横断的な取り組みによる地球環境関連の新規事業を生み出すというミッションへの期待は高いと考えています。

このように、環境問題を積極的に、前向きなものとして捉えていくということが、当社が環境に関する取り組みを始めたきっかけだといえるでしょう。

東レは、最初は「東洋レーヨン株式会社」という名称で設立された、レーヨンを製造・販売する企業でした。その後、合成繊維や樹脂・フィルム、高機能材料などを製造し、最近は「グリーンイノベーション(GR)事業」ということで環境関連先端技術を主力にした産業戦略を伸ばしていこうと進めています。

地球環境事業戦略推進室が社長直轄組織というのはすごいですね。

環境への取り組みは、明日、明後日にすぐに必要になるものではなく、社長のトップダウンによって進めていかなければ、社内に浸透していかないのです。また、企業としてはどうしても利益を生む事業が重要となるので、利益との関連が判り難い環境の部署を社長直轄組織としたほうが社内的に与えるインパクトが大きいという意味もあるかと思います。

「グリーンイノベーション(GR)事業」とはどのような事業なのですか。

「グリーンイノベーション事業」というのは、今後ますます重要性が高まる地球環境問題や資源・エネルギー問題の解決に貢献できる事業で、省エネルギー・新エネルギー・バイオマス由来・水処理・空気浄化・環境低負荷・リサイクル・プロセス革新などの分野で、それぞれにふさわしい最先端材料・技術の開発を推進し、ソリューションを提供していきます。

航空機や自動車の炭素繊維による軽量化が代表的なものであり、これによって燃費を向上させ、省エネルギーに貢献します。新エネルギーでいえば、太陽光発電や風力発電、燃料電池やリチウムイオン電池(LIB)などへの材料の提供があります。太陽光発電用パネルに用いるバックシートフィルム、風力発電の風車のブレード、燃料電池用の電極基材、LIB用セパレーターなどが代表的なものです。バイオマス由来では繊維・フィルム・樹脂というように、当社のコア技術から生まれた最先端材料により、地球温暖化防止や環境負荷低減に貢献します。

当社が一貫して訴えているのは、人口が多くなり、経済的に豊かになるにつれ、自然にCO2が増加していくということです。当然CO2を削減しなければならないわけですが、単純に削減するといっても、製造部分だけで注力しても効果は限定的です。東レとしては、ライフサイクル全体でCO2を削減していくために貢献することが重要です。この点については「LCM(Life Cycle Management/ライフサイクルマネジメント)」による環境経営の部分で触れていきます。

2008年度の日本のCO2排出量は、約12億トンにもなります。部門別内訳では、そのうちの39%が、主に製造部門(産業部門や工業プロセス)で排出しています。また、半分以上を占める53%は自動車の運転時や暖房を入れるなど、使用時(運輸部門や家庭部門など)において排出しています。

自動車を例に挙げると、CO2の発生は製造段階で16%、使用段階で83%、廃棄段階で2%とライフサイクル全体におけるCO2の8割以上が使用時に発生しています。また、航空機では製造段階でわずか1%、使用段階(運航時)で99%もCO2を排出しているのです(※)。このように、使用段階において対策をしなければ、地球規模でCO2排出量を削減することにはならないのです。

※炭素繊維協会2008年資料より。

そのようなこともあって、東レとしては、製造段階はもちろん、使用段階におけるCO2排出量の削減にも貢献する製品開発に注力していきます。これが、「LCM」に基づく環境経営の実践において当社が目指すところです。


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