原子力発電の基礎知識
いきなり難しい話から入るのだが、物質は「原子」で構成されており、原子はさらに「原子核」とその周辺にある「電子」により構成されている。そして、原子核は「陽子」と「中性子」からなる。マイナスの電荷を持つ「電子」とプラスの電荷を持つ「陽子」の数は同一であり、原子には陽子の数に応じて番号がついている。例えば、水素には陽子が1個しかないので原子番号は「1」になる。そして、原子炉の燃料であるウランの原子番号は「92」だ。
ウランには143個の中性子を持つ「ウラン235」、146個の中性子を持つ「ウラン238」などがある。「ウラン235」は核分裂を起こしやすいのだが、「ウラン238」は自然界に多く、核分裂を起こしにくいという特徴がある。そこで、原子力発電では「ウラン235」を数%だけ含んだ燃料を使っている。
原子力発電では、核分裂により生じる膨大な熱エネルギーを利用する。それでは、核分裂を起こすために、どのようなこと行っているのだろうか。
「ウラン235」の原子核に中性子を当てると、ウラン原子は2つの原子核に分裂するのだが、このときに大量の熱エネルギーが発生する。この熱エネルギーを発電用熱源として水を蒸気に変え、蒸気タービンと発電機を回転させて電力を起こすという仕組みになっている。
ウラン原子が分裂する際、新しく2個~3個の中性子が誕生する。この中性子を別の「ウラン235」に当て、核分裂が起こしてまた新しく2個~3個の中性子が誕生…ということを繰り返しているわけだ。このような反応をゆっくり、かつ連続的に行われるようにするのが原子炉という装置である。
原子力発電で生み出される熱エネルギーは、「ウラン235」の1g当たり石炭3t、あるいは石油2,000L分にもなるという。少量の燃料で、膨大なエネルギーを生み出すことができるのだ。
現在、日本で運転を行っている原子炉は「軽水炉」と呼ばれるものだ。原子炉というのは、使用される減速材や冷却水により区別されており、ほかにも軽水の2倍の質量を有する重水が使われる「重水炉」や、黒鉛が使われている「黒鉛炉」がある。減速材と冷却水についてはあとで説明しよう。
ちなみに、「プルサーマル」という言葉をニュースなどで目にした人も多いかと思うが、“プル”は燃料となる「プルトニウム」を、“サーマル”とは「軽水炉(サーマルリアクター)」のことを意味する。
軽水炉では、軽水(※普通の水のこと)が減速材と冷却水に兼用されており、燃料には濃縮ウランが用いられる。軽水炉は世界の原子力発電の主流であり、蒸気を発生させる仕組みの違いで「沸騰水型炉(BWR/Boiling Water Reactor)」と「加圧水型炉(PWR/Pressurized Water Reactor)」に分類される。詳細な説明はしないが、福島第一原子力発電所で採用されているのは沸騰水型炉(BWR)だ。
原子炉圧力容器は、素材に高圧に耐えられる金属を使っており、さらにステンレス鋼が内張されているので、高い気密性を有している。原子炉圧力容器というのは、基本的に「燃料」「冷却水(冷却材)」「制御棒」「減速材」「緊急炉心冷却装置」により構成される。
燃料はウランやプルトニウムを焼き固めて、小さなペレット(固まり)状にしたものである。ペレット状となった燃料は、燃料被覆管というものに詰められて燃料棒となる。さらに、燃料棒を束ねた燃料集合体というものに加工されて原子炉に置かれる。
核分裂で発生した熱エネルギーを、原子炉の外に取り出すために必要なのが冷却水である。先述したように、軽水炉では冷却水の軽水が減速材の役割も担っている。
そして、ニュースでよく取り上げられていたのが制御棒だ。名前のとおり、核分裂をコントロールするための棒であり、これを動かすことで中性子の数をコントロールしている。核分裂を継続的に発生させるには、中性子の数をコントロールしなければならない。制御棒は発生した中性子2個~3個のうちの1個を、次の核分裂に使うために「ウラン235」に当て、残りは吸収することで中性子の数を一定に保っている。制御棒を原子炉から抜くと吸収される中性子の数が減少するため、核分裂の回数が増加して出力が上がることになる。逆に、制御棒を原子炉のなかに入れると、核分裂の回数は減少するので出力は下がる。
なお、核分裂が連続して起こることを「連鎖反応」というのだが、連鎖反応が一定割合で持続していることを「臨界(臨界状態)」と呼ぶ。原子炉内を臨界状態に保つことにより、発電が行われている。
核分裂により放出された中性子は、ものすごいスピードで動く。それは、光の速さの約10分の 1にもなるらしい。しかし、スピードが速すぎると核分裂を起こすことができない。そこで、中性子の速度を落とすために減速材という水が必要となる。先述したように、ここで普通の水=軽水を使うものが軽水炉だ。軽水炉では原子炉内を大量の水で覆っており、核分裂反応の速度を一定レベルに落しているわけだ。
緊急炉心冷却装置(ECCS/Emergency Core Cooling System)は、冷却水の流失や減少により原子炉内が“空炊き状態”となることを防ぐため、炉心(※)に水を注ぎこんで一気に冷却する“最重要装置”である。今回の復旧作業で、炉心の温度を下げることができなかったのは、停電や発電機の故障により緊急炉心冷却装置が動かなかったことが大きな理由のひとつだ。そのため、水素爆発が起こり、放射性物質が漏れる事態となった。
※原子炉内で核分裂が活発に行われる部分で、燃料と減速材で構成される。
各地で放射性物質が検出されたというニュースが頻繁に報じられている。そこでよく使われるのが、「ベクレル(Bq)」や「シーベルト(Sv)」という言葉だ。ベクレルとは“放射線を出す能力の強さや量を表す単位”であり、シーベルトは“人間が放射線を浴びた場合の影響度を表す単位”のことだ。1秒間で原子1個が崩壊すると1ベクレルとなる。タバコの灰1gでも5.9ベクレル程度、人の体内にも約7,000ベクレルの放射性物質が含まれているという。
放射性物質にはセシウムや放射性ヨウ素など様々なものがあり、しかも放出される放射線の種類や大きさが異なる。そのため、ベクレルだけでは人体への影響度合いは分からない。そこで、放射線の種類や放射線を受ける身体の部位なども考慮した、シーベルトという数値が用いられる。
「放射性物質」と「放射能」、「放射線」という、似たような言葉を使って説明したわけだが、混乱しないようにここで整理しておこう。放射性物質の原子が崩壊することにより放出されるエネルギーを放射線といい、放射線を出す能力のことを放射能という。懐中電灯に例えて説明されることが多いようだが、懐中電灯自体が放射性物質、電球から発する光が放射線、懐中電灯の光を発する能力が放射能ということになるようだ。確かに、このように説明されると分かりやすい。
それでは、人体に影響が出るとされる値はどの程度なのだろうか。「国際放射線防護委員会」の説明では、がんの増加が明確に認められるには、一度に100ミリシーベルト(※1,000マイクロシーベルトで1ミリシーベルトになる)の放射線を浴びる必要があるとしている。
放射能は、放射性物質の種類により異なるが、時間の経過により減少するという特徴がある。放射性物質の付着により外部から放射線を浴びるケースと、呼吸や食事により体内に取り込んでしまうケースがあるのだが、放射性ヨウ素(ヨウ素131)の場合、放射能の量が半分に減るまでの時間(※半減期)は8.0日とされている。セシウム(セシウム137)の場合には、半減期までに30年もかかる。
ちなみに、放射性物質は“同心円状に拡散するものではない”という点は理解しておこう。風向きなどの影響により、濃度の薄いところや濃いところがある。政府では「SPEEDI(スピーディ/緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)」と呼ばれる装置を導入し、放射性物質の飛散状況を予測している。
実は、私たちは日常生活でも1年間で約2.4ミリシーベルト(※世界平均)の自然放射線を浴びている。それに加えて、医療放射線を中心とした人工放射線も受けているわけだ。健康診断などで受ける胸のレントゲン撮影の場合、1回で0.05ミリシーベルトにもなる。
そう考えると、ニュースで報じられている放射線量は、人体への影響度としては問題ないレベルだといえる。先述したように、デマや風評などに惑わされることなく、正確な情報に基づいて的確に行動することを心がけたい。そして、現在も復旧作業に取り組んでいる方々には感謝したい。
- 日本列島に残る大きな傷あと
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